コンテンツの受け取り方は時代とともに変化
ご存知の通りマーケティングはマスマーケティングの時代からデジタルマーケティングの時代を経て、大きく変化しています。特に、スマートフォンの登場と通信環境の変化はマーケティングそのものを大きく変化させました。私がマーケティングの仕事に関わったのはテレビ局の広告営業が最初でした。東京で代理店担当の営業マンとして、テレビがまさにメディアの中心にいた時代を体感できたことは貴重な経験だっと思います。その後、米国NY駐在員として赴任した時にインターネットに出会いました。すでに格安で常時接続のインターネット環境はメディアの新しい時代の到来でした。それを契機として、インターネット業界へ転身し、約20年インターネットマーケティングに身を置きました。そして、スマホとSNSが生活者に普及、多くの生活者に行き渡ることで生まれたネットワーク効果に加えて、AIの登場によって、マーケティングは革命的な変化を起こしています。私の経験を踏まえて、旧来型マスメディアから現在に至るまでのマーケティングの変化を振り返ってみます。
テレビンテンツ(番組)は家族全員が楽しめる「Push型」最大公約数コンテンツ
1950年代に登場したテレビは、動画でしかもカラー映像という、出現当時はまさに革命的なメディアでした。その後、半世紀以上テレビはメディアの主役に君臨しました。一家に一台が当たり前のようになり、家族の団欒、お茶の間には欠かせない娯楽でした。家族の団欒で視聴されるテレビ番組は、どの世代にでも支持されるよう、家族全員の関心の最大公約数的なコンテンツでした。歌番組やお笑い、そしてドラマがその主役でした。家族全員で視聴し、翌日に会社や学校で、それらの番組の共通の話題でおしゃべりしたものです。テレビはコンテンツ(番組)を家族全員を対象に一方的に視聴させる「Push型」情報配信と言えます。それらテレビビジネスを支えているのが、15秒〜60秒のコマーシャル、CMでした。CMは放送中に幾度となく流され、視聴率が上がれば上がるほどCMからの収益が増えるモデルでした。テレビのコンテンツはそうしたテレビ収益モデルに合わせて、視聴率優先、CM視聴機会を増やすコンテンツ作り、が常にコンテンツ制作において必要条件でした。最近では視聴率を優先するために、家族全員が共通で楽しめるという点や、制作費を抑える意味でもお笑いやバラエティ番組が増えています。
テレビは家族全員の共通の関心コンテンツ
革新的なインターネットの登場。コンテンツは意のままに引き出せる「Pull型」へ
1995年革命的なOS ウィンドウズ95がマイクロソフト社より発売されました。ウィンドウズ95の登場によって、当時高価で難しい技術者向けのパーソナルコンピューターが、一般生活者に普及するようになりました。そこで生活者はかつてない情報革命を体験することになります。インターネットの登場です。インターネットは生活者の必要とする情報を、必要とするタイミングで受け取ることができました。テレビのように、決められた時間に決められたチャンネルで情報を待つ必要がなくなったのです。通信環境の進化発展も目まぐるしいものでした。インターネット初期はテレ放題(96年開始)と呼ばれる午後11時からの常時接続から、ADSLと呼ばれるメタル回線を経て、現在の光回線に至っています。ひとたびデスクトップPCの前に座れば、HD映像の映画からスポーツ中継や趣味の映像まで何不自由なく視聴できる時代となりました。
2002年にサービスを開始したGoogleは、インターネットにさらなる革命をもたらしました。Google以前は人間が仕分けしたカテゴリーへ案内するだけしか、情報へのアクセスができなかったインターネットでしたが、Googleはすべての情報を整理し尽くした上で、どんなキーワードであっても瞬時に生活者に届けることに成功しました。テレビが最大公約数の興味関心を一方的に伝える「Push型」であるのに対して、Googleが主役となったインターネットは、生活者が必要な情報をとりにいけばすぐに引き出しから出してくれる、「Pull型」の情報伝達手段です。
Googleが提供する「Pull型」情報伝達ビジネスを支えてきたのが、インターネット広告の飛躍を支えた「検索連動型広告」です。検索連動型広告とは、文字通り生活者が必要とする情報を検索した際に、その情報ニーズに関わる広告主が検索結果に広告を表示できるというものです。情報ニーズに合わせて、必要とされる情報を提供できる検索連動広告は、高い広告成果を生み出し、市場を大きく拡大しました。また精度の高いターゲティング効果に目をつけた不動産業界や人材業界、金融業界などの先進的な企業が、この広告手法をきっかけにインターネットに事業をシフトさせたり、特化させることで飛躍的に事業を拡大させました。
圧倒的な成果を生み出すものの、ブランド側からはいくつかの疑問を持たれたのも事実です。検索結果に表示される広告は入札制(オークション)が導入され、一つのキーワードを巡って、広告単価が過度に高騰したのです。また一部の生活者は、検索結果はお金で買えるものという考え方から敬遠する人が増えてきたのも事実でした。
このGoogle検索の登場によって、「コンテンツマーケティング」が注目されるようになりました。検索をしたユーザーが、検索結果を通じて、情報にアクセスできるように、検索エンジンに見つけられるように最適化したウェブページを作ったり、商品やサービスの関連する記事をメディアに取り上げてもらうようしたのです。今もアマゾンなどで「コンテンツマーケティング」と検索すると、これらの検索エンジンへの最適化施策SEO(Search Engine Optimization)に関連する書籍が表示されます。こうした「コンテンツマーケティング」は検索エンジンが主流の時代のものと言えます。
スマートフォンとSNSの進化、AIにより、新しい時代の「Push型」の時代へ
07年Appleによって発表されたiPhoneが新たなマーケティングの時代を創るとまで考えた人が、当時どれほどいたでしょうか?発売当時は「これは電話ではなくコンピューターだ」、「ネイルをしている女性には取扱いにくいものだ」、など当時の携帯端末にとって変わるほどではないと言われていました。しかし、その後スマートフォンは普及し続け、今では生活者のほぼ全てがスマートフォンを保有し、その利便性を享受しています。スマートフォンを支えるOSはiOSとアンドロイドOSですが、これらのOSはユーザー(生活者)の利便性向上、顧客体験の向上のために、様々な個人の情報を取得しています。(もちろんそれらをOFFにして取得させない設定もできますが、スマホの利便性を大きく損なうため、躊躇せざるを得ません。)そして時同じくして始まったフェイスブックに代表されるSNSなどのプラットフォームもまた、スマホに欠かせないメディアとして普及しました。SNSは文字通りソーシャル、つまり社交的な関係から繋がるネットワークです。つまり大切な友人知人との近況などを、プラットフォーム側が日々の閲覧情報をもとに、独自のアルゴリズムでタイムライン(画面上)に表示をさせます。SNSもまた広告で成り立つビジネス故に、タイムラインをできるだけ長く表示させるために、最も関連性の高い、最も興味関心の高いコンテンツを出します。タイムライン表示のアルゴリズムは日々変化していますが、個人にフォーカスした推奨コンテンツが並んでいるのです。これらのSNSタイムラインのコンテンツは個人にフォーカスした「Push型」のコンテンツです。プラットフォーマーが個人にフォーカスしたコンテンツをどのように選定しているかは、ブラックボックスなので断定はできませんが、過去に「いいね」などのアクション(エンゲージメントと呼びます)や、コンテンツの閲覧時間、メッセージのやり取り、そこから判断できる興味コンテンツなどによるものと思われます。
このように、スマホとSNSの普及によって、コンテンツは再び「Push型」へとシフトしてきたのです。10年前はブラウザの「お気に入り」やGoogle検索など、生活者が情報を引き出す行動「Pull型」から、これからはスマホを片手に自分に必要な、興味関心の高いコンテンツが「Push型」で届けられる時代なのです。
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