高市議員、総裁選決選投票に進む、その後、株価は跳ね上がり、為替は大きく変動しました。
7月石丸東京都知事候補もまた、知名度を上げることに成功しました。短期間の「大躍進」を支えたものは?
史上最多9人の候補者が名乗りを上げた2024年の自民党総裁選は、石破茂・元幹事長が新総裁に選出され、1日石破内閣がスタートしました。今回の総裁選で注目されたのは、高市早苗・経済安全保障担当大臣の大躍進でした。この大躍進の裏には、SNSと動画による情報発信がクローズアップされました。まさにデジタル時代の選挙戦を象徴するものと言えます。
デジタル時代の選挙戦の効果は、近年ますます高まっています。記憶に新しいところでは、7月実施された東京都知事選挙の石丸伸二氏の大躍進もありました。石丸氏は市長時代からSNSで知名度を高めた実績があり「ほかの候補者にはできない戦い方だ」として、SNSを駆使して、若者層への認知を獲得し、無党派層の支持拡大につなげました。東京の有権者にとっては知名度が少なく、公示直後は有力候補とされていませんでしたが、選挙期間中に一気に知名度を上げて、大躍進しました。また米国の共和党トランプ大統領候補が、かつて自らTikTok大統領令にサインしたにもかかわらず、今回の大統領選挙戦でTikTokによる情報発信を開始しています。
高市早苗氏、石丸伸ニ氏に共通しているのは、デジタル時代の選挙戦に精通した戦い方をしたことです。それはスマホによる情報発信、SNSの活用、動画の活用をしたから、だけでは説明不足です。ここ数年で大きく普及している「ショート動画」の戦略的な活用に目を向けるべきでしょう。
ユーザーは文字で読んだメッセージの10パーセントほどしか記憶しないのに対し、動画で見たメッセージの95パーセントは記憶するとも言われる。(中略)つまり、今では、文字ではなく動画こそがハイプ・マシンの最重要メディアだということだ。文字情報の分析は、黎明期のハイプ・マシンにとっては重要だったが、今のソーシャル・メディア・プラットフォームは、主として動画を収集し、それを分析することによって世界を把握していると言っていい。
シナン・アラル. デマの影響力なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか? (Japanese Edition)
大躍進の立役者「ショート動画」
SNSやYouTubeが広く普及してから10年以上が経ち、それらを活用したデジタル選挙戦はすでにどの政党でも、多くの議員や候補者が行っており、珍しいことではありません。今どきの議員や候補者であれば、X(旧ツィッター)やフェイスブックのアカウントからの情報発信はマストでしょう。にもかかわらず、なぜ今回の高市氏や石丸氏のような、想定以上の「大躍進」ができたのでしょうか?同じSNSやYouTubeを活用しているにもかかわらずです。
その大きな要因には、過去のSNS、YouTubeなどプラットフォームが大きく進化したことにあります。
そこにはプラットフォームの「仕組み(アルゴリズム)の変化」があるのです。この「仕組みの変化」によってSNSやYouTubeは、活用方法次第で今まで以上の効果をもたらしたのです。
ではその「仕組み(アルゴリズム)の変化」とは何でしょうか?
プラットフォームの「仕組みの変化」は大きくあげて、下記の3つです。
- 「文字」「画像」メインから「動画」へと変化
- 「横長長尺動画」から「縦型ショート動画」へと変化
- 「フォロー型」から「レコメンド型」へと変化
スマホにおける情報伝達の主流となっているのが「動画」です。そしてスマホにおける動画のフォーマットは「縦型」が主流です。中には、いまだに「横型」だと主張される方もいらっしゃいますが、Google、YouTube、Meta(Instagram、Facebook)そしてTikTokなどのプラットフォーマーの主戦場は「縦型」にシフトしています。サブスク型の動画プラットフォーム、NetflixやDisney+、Amazonプライムなどは「横型」ですが、今回のような選挙戦やマーケティング戦略としては「横型」の拡散力はかなり減少しています。(YouTuberが昔ほど稼げなくなったなどのトピックを耳にされたことがあるのではないでしょうか?)
今後巨大プラットフォーマー達が主戦場を「縦型」にするにはそれなりの理由があります。ここでは詳細は述べませんが、視聴滞在時間を稼ぎやすい、広告の挿入機会が多い、そしてギフトやスパチャそして将来のECなど「事業収益機会が圧倒的に多い」からです。
高市早苗議員のショート動画(「高市早苗チャンネル」より)
SNS、YouTubeは「フォロー型」から「レコメンド型」へ
かつてXやインスタグラムはフォロワーを集めることで、情報を伝達そして、その拡散能力が高まったのです。そのために、個人も企業もフォロワーを増やすことに躍起になりました。しかし、今のSNSはフォロー型からレコメンド型へその情報発信の方法を変えています。
フォロー型・・・・情報を発信する個人や企業、政党のアカウントを自らフォローすることで、その情報を受け取る。価値ある情報や伝えたい情報は、Xではリツィートという形で、自らの意思で情報を拡散させる。
レコメンド型・・・上記のアカウントをフォローする以外にも、プラットフォーム(InstagramやYouTube、TikTokなど)側がその人の興味関心などを、過去の閲覧情報などをもとに、その人にとって価値あるコンテンツをレコメンドする。価値あるコンテンツはユーザーをプラットフォームに滞在させ、広告視聴機会の増加や課金、またECなどのトラフィックビジネスからの収益拡大につながります。
レコメンド型情報伝達の仕組み
TikTokやInstagram、YouTubeショートを視聴していると、何時間もコンテンツを見続けてしまったという人が増えています。一度の視聴では、プラットフォーマーは、視聴者本人の興味関心を知る術はありませんが、複数回視聴していくと、視聴者は何に興味を持っているか、を判別していきます。もちろん、全て本人の興味関心だけでは、飽きるリスクもあるため、その人が興味を持つだろう、新しいコンテンツも流れてきます。
ここで、「主婦子育て中のAさんという有権者とBという候補者」を例に上げて、有権者Aさんがどのようなプロセスで候補者Bの支持に至るのかを挙げてみましょう。
ある日主婦Aさんが、お気に入りのプラットフォーム(YouTubeやTikTokなど)を見ていました。するとAさんのお気に入りの音楽に合わせて、B候補者の30秒の自己紹介動画を見ることになります。AさんにB候補者の動画が届けられたのは、Aさんの「お気に入りの音楽」をB候補者が使っていたことで、プラットフォームが、そのコンテンツを「おすすめ」したのです。選挙が近いことを知っていたAさんは、B候補者について初めて、知ることとなりました。Bさんという候補者の存在を「認知」をしたのです。自分のお気に入りの音楽をきっかけにB候補者の30秒動画を最後まで見ることとなりました。
この動画視聴をきっかけに、B候補者の別の動画も流れてきました。Aさんは日頃から地域の子育て支援に強く関心を持っていたこともあり、子育て支援問題について意見するB候補者のコンテンツを聞き入ってしまったのです。この子育て支援策に共感したAさんはB候補者のコンテンツを最後まで視聴し、ハートマークの「いいね」を押したのです。
・お気に入りの音楽に合わせたB候補者の自己紹介動画を最後まで視聴
・共感する子育て支援策に「いいね」
この行動によってAさんのプラットフォームの投稿画面には、B候補者の投稿する動画がかなり頻度高く出現するようになりました。そしてAさんがある日、Bさんのライブ配信を目にする機会があったのです。政治家なんて、手の届かない遠い人だったはずが、日常親しみのあるスマホSNSで、リアルタイムに時間を共有することはAさんにとって貴重な体験となりました。AさんとB候補者の距離はとてつもなく近い距離となりました。プラットフォームのアルゴリズムと動画を通じて、B候補者の人となりを知り、問題意識を共有し、ライブ配信で親しみを持つ。このプロセスを経て、AさんはB候補者の支持者となったのです。
ハイプ・マシンはそれと同時に、世界規模の「説得マシン」でもある。大勢の人々の行動を一斉に変えさせることも可能だ。しかもコストは安い。ソーシャル・メディア上では同種の人たちが集まりやすい傾向があるため、特定の種類の人たちを見つけることや、人々を分類することは容易である。
企業のマーケティングにも「大躍進」を
今や高齢者までもがスマホを保有する時代です。スマホとプラットフォーマー(SNSやYouTubeなど)の「ショート動画」シフトが、今までのデジタル選挙活動を大きく変えました。過去のネットを通じたデジタル選挙活動では、認知のためには、有権者向けのデジタル広告、有権者の検索行動を待つことや、SNSではフォロー行動を起点とする必要がありました。衆院選は2024年10月27日投開票の日程で実施されることが決まりました。この選挙戦においても、デジタル選挙活動の考え方をアップデートする必要があるでしょう。
今日ご紹介した、新しいデジタル選挙活動は、主に欧米企業が実践するCXマーケティングそのものです。
CXマーケティングとは、ブランドが保有する情報を、それらを必要とする生活者に最適な表現フォーマットでお届けし、商品やサービスの認知を図り、その後の継続的なアクセス(顧客接点)によって行動(購買)と最終的には推奨というサイクルを生み出すマーケティング活動です。日々のブランド体験を継続的に提供することで企業の持続的成長を目指すのです。このCXマーケティングによって企業のマーケティング活動も「大躍進」することでしょう。
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