動画の表現内容について、世界中で賛否の議論が巻き起こったパラリンピックTikTok公式アカウントでしたが、先日発表された視聴者数、再生回数は大成功と言えるものでした。「どんなコンテンツであっても、その表現力と強力なアルゴリズムで、世界に影響を与えることができるショート動画プラットフォーム」のメディアパワーを再認識させられるものでした。
2024年の夏、オリンピックや大谷翔平の活躍をSNSのショート動画で視聴した人も多かったはずです。日本経済新聞社の記事によれば、オリンピックをSNSでのタイパ視聴(タイムパフォーマンスよく情報を得る動画視聴形態)する人々は年々増えているということです。インターネットでの動画視聴回数はロンドンでは19億回、リオでは116億回、東京では280億回と開催毎に爆増しています。
日本経済新聞 五輪観戦もタイパ重視 「スマホでハイライトだけ」縮むスポーツの輪
こうした世界的な動画視聴形態のシフトに伴い、TikTokは国際パラリンピック委員会と提携し、2024パリパラリンピック大会での公式アカウント開設し、コンテンツ、ライブ配信を実施しました。
TikTokコンテンツには賛否両論
TikTokのパラリンピック公式アカウントには日々コンテンツがアップされ、パラリンピックの感動の瞬間を切り取った映像は、クリエイターたちのTikTok世界観をふまえて、人気の音楽とマッチして10万再生を超えるコンテンツも続々と現れました。一方で、ハンディキャップを抱えた選手たちを過剰なまでにおもしろおかしく演出することに批判の声も上がりました。
TikTokのパラ公式アカウントを「見下した態度で無礼」「彼らの戦略は万人受けするものではない」などと批判するパラリンピックのスノーボードチャンピオンも現れました。ソーシャルメディア上には、このアカウントがアスリートたちを嘲笑し、彼らの功績を軽視していると非難し、「無礼」「邪悪」「不快」「視聴率のための障害者差別」とまで言う声もあがりました。
投稿動画の一例としてあげられるのは、3900万回(24年9月25日時点)も再生された盲目のアメリカ人トライアスロン選手、ブラッド・スナイダー選手の映像です。バックグラウンドでベートーベンが流れる中、ピアニストのように両手を空中に振り、ヘルメットを「探して」いるのですが、それを見つけることに苦労している映像です。他にも片足のオーストラリアの自転車競技のダレン・ヒックス選手がゴールラインに向かって走る姿が「すみません、左、左、左に曲がります」というフレーズを繰り返す音楽に合わせて投稿されました。
パラリンピックのTikTok動画に対する反応の中には多くの否定的な声があるのは事実です。ただ完全に否定すべきかどうかは、アカウントの運営者や、そこに登場した選手の一部には、これは知名度を高めるための重要な手段だと語っていることも知っておくべきです。公式アカウントの動画制作も元パラアスリート達の手によるもので、コンテンツの表現内容が当該選手の気持ちやパラアスリート達の意見を十分に取り入れたものであるとしています。IPCの広報担当者は、パラリンピックのTikTokは「社会参加を推進するツールとしてのパラスポーツの力について」若い視聴者とつながる貴重な手段を提供しているとも述べています。
パラオリンピックはオリンピックと比較するとまだまだ認知度も人気も発展途上です。今の状況で、資本主義が支配する伝統的なメディアでは、放映も限定され、またその費用も莫大なものになります。今回の取り組みは、こうしたメディア現状を打破するチャレンジングな取り組みだったと言えるでしょう。TikTokという急成長するプラットフォームを使い、一部の人には不快とも取れる批判覚悟の動画クリエイティブで勝負したのですから。
しかし、その挑戦の結果は想定以上のものだったのです。
結果が伝える事実
2024年9月18日、パラリンピック委員会IPCは次のようなリリースを発表しました。
TikTok視聴者がIPCパラスポーツ発展のために50万ドルを寄付
パリ2024期間中、@Paralympics TikTokコンテンツの視聴回数が1億2500万回を超える
今までのメディアでは実現しなかった、パラオリンピックの視聴機会を増やし、パラリンピックの認知だけでなく、視聴者のTikTokプラットフォームにあるギフト機能を使って、パラオリンピック、パラスポーツへのサポートを目的とした支援金、寄付金を得ることができたのです。
TikTok、ショート動画プラットフォームがもたらした可能性
今回、国際パラリンピック委員会(IPC)は、パラリンピックのさらなる進化発展に向けて、このプラットフォームの活用を決断しました。旧来のメディアに依存せず、新しいメディア・プラットフォームに賭けたのです。コンテンツの表現においても、プラットフォームの視聴数を増やすためのアルゴリズムを理解した上で、チャレンジを重ねました。その結果は、旧来メディアでは実現できなかった視聴者数、視聴回数による、認知の高まりと、それらプラットフォームの寄付機能を使って、パラスポーツを支持する世界中の人々からの寄付でした。
マーケティング戦略にも、こうした挑戦が必要です。デジタルの時代はいつまでも同じことが続くわけではありません。テクノロジーの進化に応じてその可能性に挑戦する、IOC国際パラリンピック委員会はその挑戦によって新たな可能性を見出したのです。
多くの方が今も、TikTok、YouTube shortに代表されるショート動画プラットフォームを若者だけのプラットフォームだと考えています。一方で欧米の先進的なブランド企業は積極的にこの動画プラットフォームをマーケティングに取り入れて、ブランドと消費者のブランドCX顧客体験を量と質の両面において高めることで、ブランドへの親近感、ロイヤリティを高めて、安定的な事業成長を実現しています。 これからの新しいインターネットの表現手法に挑戦することで、新たな可能性をきっと見つけられるはずです。
(トライメディア編集部)
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