GAFAなどプラットフォーマーが、なぜコンテンツビジネスへシフトするのか?それは過度な広告依存という事業リスクから脱却し、より安定的な収益モデルへのシフトが不可避だからです。企業もデジタル広告依存から脱却し、デジタルマーケティングのバリエーション、多様性を高める必要があります。
今朝の「グーグルの本業が「検索広告」から「サブスク」に変わりそうな兆し。独禁法の脅威もないし」という記事です。
私たちがCXマーケティングの表現の場としている、GAFAやTikTokなどのプラットフォームはここ数年の間に広告モデルからユーザーから課金するモデル、特に定期的に料金を支払うサブスクリプション型収益の売上比率を高めています。思えば、我々は日頃から何気なくGAFAに課金していて、年々その比率は高まっているのです。身近なところでまっさきに思い浮かべるのは、映画や音楽などのサブスクリプションサービスです。Amazon PrimeVideoやApple Music、AppleTVやYouTube Premiumなどがその代表でしょう。今日の記事では、Googleの「Gemini(ジェミニ)」、AIサービスのサブスクリプションのようにビジネスユースのサブスクリプションも増えていますね。企業契約ではGoogleCloudサービスやAmazonのAWS、個人のiPhoneユーザーなら写真保存などにiCloudや、アンドロイドユーザーならGoogle Photoなどのサブスクリプションサービスを契約しているはずです。個人レベルで少額とはいえ、スマホユーザーの多くが契約していることを考えれば、GAFAにとって、ユーザーからの課金は非常に大きな収益源になっています。そして、意外と知られていないのが、個人レベルの利用で、GoogleやAppleに支払っているという事実です。例えばスマホゲームの課金の一部です。これもゲーム会社だけでなく、Google、Appleに課金の一部が分配されています。それだけではありません。日頃何気なくスマホでクレジットカードやSuicaなどの交通系決済を使って、電車改札の電車賃、コンビニでのお弁当の決済に使っていますよね。それらの料金の一部も、iPhone利用者ならAppleに、Android利用者ならGoogleに支払われているのです。実は何気ない行動を通じて、AppleやGoogleに毎日課金されているのです。
事業リスク度の高いデジタル広告
一方Googleの主力事業であったGoogle広告は、Googleにとって非常に大きな事業リスクとなっています。広告事業が抱えるリスクとして挙げられるのが、個人情報保護観点での逆風です。欧州GDPR(一般データ保護規則)や、米国DAAによる広告ターゲティング自主規制など、デジタル広告を規制する動きは年々加速しています。また今年8月には米国連邦地裁がGoogleの検索市場支配が、日本の独占禁止法にあたる法律違反であると判決しました。また欧州では新聞社などから著作権法違反などでも広告ビジネスが違法な収益を得ているのではないかと、訴訟されるなどデジタル広告をめぐるリスクは年々拡大しています。これがGoogle、アルファベットの事業リスクとしてクローズアップされているのです。デジタル広告とそれを支える検索事業は常に巨額な訴訟問題のリスクにさらされているのです。
デジタル広告の顧客体験は思ったほどよくない
ユーザー視点ではどうでしょうか? オフィス勤務でPCを利用している人以外は、デジタル広告は日頃から、手のひらのスマートフォンで受け取る人が多いでしょう。スマートフォンがデジタル広告の表現の場、主戦場といえます。ただ、ターゲットにリーチする精度の高いデジタル広告ですが、どうやら受け取るユーザーにとって、その顧客体験は、思ったほど良いとはいえないようです。下記引用文は今年、糸井重里さんがXでツィートした一文です。これに多くの人々が反応しました。確かに、デジタル広告はスマートフォンの画面を占有し、ドヤ顔で「あなたの世代はこうなんだから、これ欲しいはずだよね」的な広告クリエイティブが目立ちます。記事を読む時、動画を見る時、ゴールに迫るフォワードの前に現れ、行く手を阻むバックスのようです。さらにデジタル広告の評判を下げたのが、今年日本を騒がせた有名人の投資詐欺広告です。上記に書いた世界的な個人情報保護視点での逆風に加えて、詐欺広告がデジタル広告へのさらなる不信感を呼んでいるのです。それだけはありません、近年クリエイティブのAI化が進み、著作権問題のないAIが生み出した「AI顔の不気味な広告クリエイティブ」が増えています。「スナイパーのようなピンポイント広告」「いつまでも追いかけてくる追跡型広告」「詐欺かもしれない広告」「動画前の強制視聴広告(まるで食べる前に、おあずけを指示された愛犬のよう)」「AI顔の不気味な広告」など、デジタル広告のCX顧客体験は思ったほどよくないのです。
読むのを邪魔するように現れる「ネット広告」を消すために必死で「×」マークを探して、見つかって消せるとほんとにうれしい気持ちになる。 どうかしてないか?!この現象! 嫌がられるために広告を出しているのか?
(糸井重里さん Xより抜粋)
サブスクリプションなど課金モデル収益を上げる
アルファベット(Google)の四半期決算内容を数年ウォッチしていると、事業収益構造におけるユーザー課金比率が年々高まっているのがわかります。またその数値が増えるほど、呼応して株価も上昇し続けています。先に上げたように、ユーザーが必要に応じたサービスに対しての課金が増えていくと思われます。「思ったほどよくない広告体験」より、ユーザーが必要な時、必要だからそのサービスの対価として支払うほうが「より良い体験」に決まってます。
今後、Googleはどのように課金機会を増やしていくのかを考えた時に、一つの可能性として「コンテンツ関連」がクローズアップされてきます。「コンテンツ関連」となると最初に映像や音楽などの「サブスクリプションモデル」を考えることでしょう。しかしコンテンツビジネスにおける収益モデルは、その他にも多数存在するのです。
例えばTikTokです。中華系のTikTokは、YouTubeを提供するGoogleにとって競合だ、と考える方も多いでしょう。確かに視聴者の時間を奪い合うという点においては競合です。しかしある座組においては、実は協業して、ユーザーから課金収益を得ているのです。最近TikTokの夜の時間のライブ配信が増えてきています。ライブ配信中にユーザーが課金したアイテムをライバー(ライブ配信しているクリエイター)に投げている、投げ銭(TikTokではギフト、YouTubeではスパチャと呼ばれます)しているのをご存知かと思います。この投げたアイテムの課金収益は、ライバーだけのものではありません。この収益はライバー、TikTok、そしてスマホのOS上での商売の場を提供している、Googleにも分配されているのです。(iPhoneでTikTok、YouTubeで投げたアイテムの一部もAppleに分配されています)
今後TikTokやYouTubeショート、またMetaインスタグラムのリールなどでローンチ(事業開始)が期待されているのがEコマース領域です。すでに中国ではライブコマースが既存のEコマース事業者を飲み込む勢いで普及しています。このショート動画、ビデオコマースが本格化すれば、そこにおける商取引においてもプラットフォーマーの収益が上がる仕組みなのです。YouTubeもAmazonと連携して、動画投稿のテキストスペースからAmazonへのアフィリエイトモデルを展開していますが、これも当然ですが、動画投稿者とYouTubeでAmazonへのアフィリエイト収益を分配しているのです。
コンテンツへのシフトは事業収益拡大の秘策
もうおわかりでしょうか?広告という収益モデルを失ったGAFAなどのプラットフォーマーが、次の収益モデルとしているのは、ユーザー課金です。インターネット上の利便性や娯楽性を伴う「トラフィックからの収益」を目指すのです。つまりどれだけトラフィックがそのプラットフォーム上で生み出されるかが、重要となってきます。その際に、プラットフォーマーが必要とするのは映像や音楽、すべてのクリエイティブを対象とした「コンテンツ」なのです。魅力的な「コンテンツ」は常にエモーショナルです。感情を揺さぶられることで、そのコンテンツに引き込まれていくのです。どれだけ魅力的な「コンテンツ」が存在しているかが、Google、Apple、Meta(Instagramやfacebook)そしてTikTok、さらにはNetflixやSpotifyなどのプラットフォームの生命線になってきます。
企業のマーケティングもコンテンツへシフトすべき
デジタル広告は「コモディティ化」が進んでいます(GoogleやMetaに任せれば自動でターゲットの設定から配信まで行うことによって、どの企業がデジタル広告を出稿しても同じサービスレベルになっている)。
プラットフォーマーがコンテンツを軸とした魅力的なユーザーの集まる場を創造していく中で、企業のマーケティング手法も、その流れを受け止めて、コンテンツマーケティングへシフトする必要があります。企業が本来持っている商品やサービスのストーリー、それを魅力的に伝える手法、そこから起きるユーザーのブランド顧客体験を増やすこと、そしてブランドへの愛着と理解から起きるユーザー発信の新しいストーリーを産み続けるのです。プラットフォーマーは企業発信であっても、著名人、クリエイター、インフルエンサーだあろうと、コンテンツを平等に扱い、評価します。そこにその情報を求める人がいる限り、その情報は人を見つけて届けられます。人は必要とする情報を得た時、それは「より良い顧客体験」そのものなのです。
私は、デジタル広告黎明期から市場を見続けてきました。その市場における勝ち組企業の勝ち方は、Google検索広告が出現した時も、SEOの時代も、ブログなどのCGM黎明期も、SNSマーケティングも、アドテクノロジーも、動画も、すべて「先行企業」がその市場を牛耳ってきました。欧米の企業が数百数千万単位のフォロワーを集め、この「コンテンツマーケティング」の市場で優位に立っている現実を目の当たりにして、日本企業の出遅れ感は否めません。ぜひ皆様とこのコンテンツによるCX顧客体験マーケティングをご一緒させていただければと思います。
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